ニューズレター
特許強制実施に関する法改正重点
専利法は2004年の改正時に、TRIPS 第31条の規定を参照し、第78条(現行法では第76条に改正)において強制実施許諾の許諾要件、申請の手続き要件及び廃止取消等の情況につき、規定して いる。もし、国家の緊急事態、公益の増進、合理的な話合いにもかかわらず実施許諾について協議できない、不正競争の救済及び再発明などの情況があれば、第 三者は智慧財産局に対して特許実施処分を作成するよう申請することができる。
フィリップスのCD-R特許及びロシュ社のタミフルワクチン特許の2つの案例において、智慧財産局はそれぞれ専利法第76条第1項に規定されている 「申請者が合理的な商業条件を提示し、相当期間をかけても、実施許諾の協議が成立しない場合」及び「国家の緊急事態に対応するため」を理由に、国碩公司及 び行政院衛生署の強制実施許諾の申請を認めた。当該2案についての決定は国内外各界の関心を大いに集めた。前記案件は、その後、それぞれ申請人の申請取下 げ及び行政救済未提起により終息したものの、各方面の関連法規適用に対する疑義に基づき、智慧財産局は法改正によりかかる疑義について明らかに説明しなけ ればならないと認めた。専利法の特許権強制実施関連規定についての改正方向を確立するため、智慧財産局は2008年7月8日に産業界、政府機関、学界など の各界の代表者を招いて、以下の関連議題について討議を行なった。その重点は、以下のとおりである。
- 「特許実施」という用語を「強制授権」に修正するか否か
- 現行法は「申請者が合理的な商業条件を提示し、相当期間をかけても、実施許諾の協議が成立しない場合」を特 許強制実施の事由としているが、これは妥当か否か?
- 現行法には、裁判所による判決又はFTCによる処分が「確定」しなければならない、と規定されているが、かかる規定は妥当か否 か?
- 「政府使用による特許強制実施」と「一般の特許強制実施」に適用される手続きをそれぞれ別々に規範すべきか否か?
- 特許強制実施処分作成時に併せて補償金を決定するよう改正すべきか否か?
- 特許強制実施後に、職権で又は請求によりこれを廃止することができることについての妥当性、及び特許実施許諾後の監督メカニズム 構築の必要性は?
- 現行法の再発明に関する規定を改正すべきか否か?
法条用語を関連規範の内容に合致させるため、並びに法規用語を一致させるため、「特許実施」という用語を「強制授権」に修正する ことを提案。
「申請者が合理的な商業条件を提示し、相当期間をかけても、実施許諾の協議が成立しない場合」を強制実施許諾の手続き性要件と し、並びに「公益に基づいた非営利的使用」及び「再発明」の2つの実質要件を結合することを提案。
次に掲げる折衷方式を採用して処理することを提案。
現行法の「裁判所による判決又はFTCによる処分が『確定』しなければならない」とする規定及び「不正競争」に係る規定を削除 し、並びに英国法を参照して「国内の商工業の発展が不正な妨害を被る」などの規定を新たに追加する。特許強制実施に係る処分は現制度を維持し、依 然として智慧財産局がこれを行うが、FTCは処分中において強制実施許諾の必要性を有すると認定したことを明確に述べたうえで、特許主務官庁はこれに基づ いて次の段階である強制実施許諾の処分を行う必要がある。
処理方式を以下のように提案。
特許権者の答弁期間を指定期間に改める。国家の緊急事態又はその他の緊急事態に対応するために特許を強制実施する場合、特許主務 官庁は緊急命令又は特許権を利用する必要がある機関からの通知により、必要な特許権を強制実施することができる。
専利法第76条5項の規定を改正し、特許強制実施を許可すると同時に併せて適当な補償金を決定するよう提案。
将来の法改正時に、特許強制実施許諾作成の基礎となる事実に変更が生じた場合、特許強制実施許諾の実施権者が授権内容により適切 に実施しなかった場合、若しくは特許強制実施許諾の実施権者が定められた基準により補償金を支払わなかった場合、特許主務官庁は特許権者の請求により その特許強制実施を廃止することができる。特許権を利用する必要を有する機関からの通知に基づいて特許強制実施許諾を行なった場合、もし関連機関が、その 後、情況に変更が生じたため、緊急事態は既に存在しないと認める場合、若しくは行政救済により取り消され又は廃止された場合、関連機関は特許主務官庁に当 該特許強制実施許諾の処分を取り消すよう、又は廃止するよう通知しなければならない。
専利法第78条を次のように改正することを提案。
「発明特許権又は実用新案権の実施が、先に出願されている発明特許権又は実用新案権の侵害を避けることができない場合、当該特許 権者又は実用新案権者の使用許諾を受けずに、その発明特許権又は実用新案権を実施することはできない。製造方法の特許権者は、その製造方法により作成した 物品が、先に出願されている特許の侵害を避けることができない場合も同様とする。
前項の特許権者又は実用新案権者が使用許諾に同意しない場合、後から出願された発明又は実用新案の特許権者又は実用新案権者若しくは製造方法の特許権 者は第76条第3~6項の規定により、強制実施許諾を申請することができる。但し、その発明特許又は登録実用新案若しくは製造方法の発明が、先に出願した 特許権者又は実用新案権者の発明特許権又は実用新案権に比べて、相当程度の経済的意義を有する重要な技術内容の改良である場合に限る。特許権者又は実用新 案権者は、後から出願された発明又は実用新案の特許権者又は実用新案権者若しくは製造方法の特許権者と、クロス・ライセンスを協議することができる。
強制実施許諾の実施権は譲渡、信託、承継、授権、又は質権の設定をすることはできないが、後から出願された発明特許権又は実用新案権若しくは製造方法 の特許権と一緒に譲渡、信託、承継、授権、又は質権の設定をする場合はこの限りではない」。
智慧財産局は上記の討議提案を参考にして、条文の改正を検討する予定である。当所では今後も引き続きこの法改正の進展に注目し、随時報告する。