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化合物の新規結晶形発明の特許性及び侵害判断



医薬品産業において、先発医薬品メーカーと後発医薬品(ジェネリック医薬品)メーカーとの間の紛争は、これまでもずっと注目を集めてきた。先発医薬品メーカーは、極めて多くの人的、物的資源を投入し、医療用途を有する新物質(たとえば化合物)を研究・開発し、様々な動物実験、人体臨床試験などを経て、さらに、世界各国の医薬品主務官庁の厳しい審査を通過した後、ようやく医薬品を市場に送り出すことができる。しかし、発売後まもなく、場合によっては、発売する前に、先発医薬品メーカーが当初研究、開発していた新物質の特許権の権利存続期間が切れれば、当該先発医薬品メーカーは特許権の保護を受けることができなくなり、往々にして、後発医薬品メーカーの同一薬品との熾烈な競争に直面しなければならなくなる。先発医薬品メーカーにとってみれば、巨額のコストを費やして新薬を開発した以上、相当の期間、市場において当該新薬の利益を独占できると期待するのは当然であり、それができなければ、投資を継続する動機及び理由がなくなり、病気を持つ人にとっても新薬投与の機会が失われることになる。一方、後発医薬品メーカーが優れた効果と品質を具える薬品を広く比較的手頃な値段で提供することができれば、医療の質を高めるのに役立ち、社会や人々の幸せにもつながる。このような点から、先発医薬品メーカーと後発医薬品メーカーのいずれを手厚く保護すべきかについては、長い間、医薬産業における極めて重要な議題であった。

そのうちの特許権制度に関する法律問題は、常に広く議論されており、国内外には数多くの訴訟事例がある。たとえば、先発医薬品メーカーが最も早く研究開発した医療効果を有する特定の化合物について特許を取得した後、その後の研究において、当該特定の化合物に関しさらに様々な新技術(新たな製造方法、新用途、新剤型、新規結晶形など)を開発し、それらの新技術のそれぞれについて再度特許を出願し、取得すれば、それら新技術の特許権は後発医薬品メーカーの経営活動に影響を及ぼすおそれがある。このため、後発医薬品メーカーは、これらの新技術に特許権の保護を与えることについて、異なる見解を持っている。

新規結晶形を例にとると、通常、後発医薬品メーカーは「その化合物は既に知られているものであり、かつ、関連分野の通常の知識を有する者が一般的に慣用の操作によって容易に当該新規結晶形を獲得することができるため、当該新規結晶形の研究、開発は珍しくもなく、いわば、それは天然物質の発見にすぎず、特許権の保護を受けることのできる『発明』には該当しない」と主張する。台湾知的財産裁判所は20113月の2つの判決のなかで、フランスの会社であるサノフィ・アベンティス社(Sanofi-aventis)と、台湾のジェネリック医薬品メーカーとの間の特許訴訟のなかで、新規結晶形という研究開発成果が特許権で保護される「発明」に該当するか否か、新規性などの特許要件を満たすか否かの認定について、その法律見解を示している。

特許権者であるサノフィ・アベンティス社は「Clopidogrel Hydrogen Sulfate」の新規結晶形について、第190825号発明特許を有している。同社は、台湾の後発医薬品メーカーが製造、販売する後発医薬品に当該新規結晶形が含まれていることを発見したため、台湾台北地方裁判所に後発医薬品メーカーに対し特許権侵害の民事訴訟を提起した。被告の後発メーカーは同民事訴訟において「特許は無効である」とする抗弁を提出したほか、第三者を通じて智慧財産局に無効審判請求を提出した。台湾台北地方裁判所及び智慧財産局はいずれも「特許は有効である」と判示し、同時に裁判所は「当該後発医薬品は特許範囲に含まれており、権利侵害を構成する」とも認めている。その後、知的財産裁判所は、20099月及び20108月にそれぞれ当該民事訴訟の第二審上訴及び無効審判行政訴訟の一審提訴を受理し、2011年3月には、98年(西暦2009年)度民専上字第57号民事判決及び99年(西暦2010年)度行専訴字第148号行政判決をそれぞれ作成し、「特許権は有効であり、係争後発医薬品は特許権侵害を構成する」という見解を維持した。

特許の有効性について、知的財産裁判所は上記2つの判決のなかで、次のように明示している。

    

天然物質に係る発明は、一種の科学的発見にすぎない場合は別として、必ずしも特許の保護客体から除外しなければならないわけではない。最初に自然界から分離した物については、その構造、形態その他物理的、化学的性質が既知のものと異なり、かつ、明確に限定されることができさえすれば、「発明」の定義に合致する。

    

既知の化合物の新規結晶形は特許性を具えるはずであり、おそらく、新規結晶形の特殊な結晶格子及び結晶格子の数は、いずれも科学的な実証が必要であり、何の根拠もなく予測することはできない。同一の化合物について言えば、何種類の異なる結晶形を製造できるか、どのように結晶形を製造するか、及び結晶形の特性については、いずれも、努力の末、ようやく完成できるものである。よって、ただ既知の化合物の開示であることだけを理由に、その光学異性体、水和物及び結晶物などの新規性を喪失させることはできない。

    

自然の状態にある天然物質は、通常すべて混合物で存在しており、たとえ、以前、当該未知の物質が含まれた天然混合物を使用したことがあったとしても、このことは、当該物質の新規性を当然喪失させるものではない。被告は「係争特許の新規結晶形は、特許出願日より前に、既に従来技術の製造結果から観測することができた可能性がある(医薬品メーカーの製造工程で出現する「種晶汚染」などの現象を含む)」と主張しているが、これによって、係争特許の新規結晶形の新規性を喪失させることはできない。

侵害の判断については、知的財産裁判所は次のように判示している。

    

190825号発明特許の請求項は、粉末X線回折(X-Ray Powder Diffractogram。以下「XRPD」)の面間距離として表される特徴的なピーク(characteristic peaks expressed as interplanar distance。以下「d値」)を新規結晶形の鑑別基準としており、当該d値はあたかも人類の「指紋」のような作用を有し、特定の結晶形の指紋的特徴とすることができる。

    

特許請求の範囲の解釈に関して、知的財産裁判所は、2006年の米国薬局方(United States Pharmacopeia=USP」)に明示されている精度の範囲を参考に、請求項に記載されているd値の範囲を認定するとともに、「係争後発医薬品は確かに係争特許に対して侵害を構成している」と判示した。このほか、知的財産裁判所は、「化合物の結晶形の確認に関して、XRPDで係争後発医薬品を分析した結果得られたd値を、請求項に記載されているd値と対比する以外にも、XRPDによる分析で得られた回析図をもって、直接対比を行うこともできる」とも認めている。

上述したとおり、本件特許訴訟の結果、先発医薬品メーカーが勝訴している。知的財産裁判所がこの事案のなかで表明した見解は、台湾の医薬品訴訟にとって、極めて参考価値の高いものである。

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