ニューズレター
台湾の知的財産権保護輸出入管制措置
商標法、著作権法、関税法、貿易法、民事訴訟法などの関連する法律の規定に合わせて、財政部関税総局は2003年6月に「税関の協力による商標権及び著作権保護措置執行作業要点」(「海関配合執行商標権及著作権保護措施作業要点」)を公布し、知的財産権水際措置を提供した。権利侵害製品の輸出入を発見したとき、一定の手続を通じて、税関は差止めを行い、ならびに司法機関の捜査に協力することができる。上記作業要点は、2005年6月に「税関の協力による専利、商標及び著作権益保護措置執行作業要点」(「海関配合執行専利商標及著作権益保護措施作業要点」)と改められ、専利権に対する保護が新たに追加された。このとき、専利権者も法定手続を経て水際措置を運用することができるようになった。上記作業要点は2008年9月に再度改正され、輸出入者及び権利者の権益に対するバランスと双方への配慮が強化された。今年(2012年)7月1日から施行された新商標法に合わせて、関税総局が原作業要点中の商標保護に関する部分を抜き出して、「税関による商標権益保護措置執行実施規則」(「海関執行商標権益保護措施実施弁法」)と改正し、ならびに2012年7月9日に公布、施行した。現行の2008年版の作業要点についても、関税総局は2012年9月に改正草案を初めて公布し、「税関の協力による専利及び著作権益保護措置執行作業要点」(「海関配合執行専利及著作権益保護措施作業要点」)と名称を改めており、現在、最終的な結論を下す参考とするため、各界から広く意見を集めている。 |
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商標権及び著作権侵害の水際措置 |
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2003年6月から実施された水際措置は商標権者と著作権者にとって、権利侵害貨物の輸出入を阻止するのにかなり有効な保護メカニズムである。前述の作業要点によれば、税関は以下の4種類の情況において、関連措置を実施することができる。 |
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(1) |
商標権者又は著作権者が「特定の輸出入貨物にその商標権又は侵害されている」と自主的に告発する。 |
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(2) |
商標権者又は著作権者が関連資料(未特定の輸出入貨物)を提示して税関に登録する。 |
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(3) |
その他の機関が輸出入貨物に商標権侵害の疑いがあることを通報する。 |
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(4) |
税関が職務執行時に輸出入貨物の外観に明らかに侵害の疑いがあることを自主的に発見する。 |
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商標権者又は著作権者による特定の輸出入貨物に対する告発、未特定貨物に対する権利侵害の疑いがある情況の提示、その他の機関からの通報、若しくは税関の職務執行時の自らの発見に基づくかにかかわらず、税関は権利侵害の疑いのある貨物を発見した場合、すぐに、確認ならびに証明書類を提出するよう権利者及び輸出入者に通知し、関連する法定手続を実行した後、法により差止め、通関させ、又は関連機関に移送して処理させる。 |
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権利者が協力すべき処理事項 |
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税関の水際措置は商標権者と著作権者に有効な権利執行メカニズムを提供したが、輸出入者の権益にも配慮するため、この措置には権利者も相当の行為義務を履行するよう明確に規定されており、これによって、それが任意に濫用されて、不当競争の手段となりはてないようにしている。たとえば、2012年7月9日に公布、施行された「税関による商標権益保護措置執行実施規則」には、商標権者が、特定の輸出入貨物が当該商標権者の商標権を侵害していることを税関に告発しようとするとき、書面で申請を提出し、ならびに以下の3項の資料を添付しなければならない、と明確に規定されている。 |
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(1) |
権利侵害の事実及び権利侵害品を識別するための説明、ならびに、権利侵害品を確認する資料(たとえば、真正品、模倣品のサンプル、写真、カタログ又は図版)を電子ファイルで提供する。 |
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(2) |
輸出入業者の名称、品名、輸出入通関地及び日付、航空機又は船舶の航行番号、コンテナ番号、貨物保存場所などの関連する具体的な情報。 |
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(3) |
商標登録の証明文書 |
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もし商標権者が、非特定の輸出入貨物に商標権侵害の疑いがあると税関に提示して、税関の同意を得て税関に一年間の保護措置を執行してもらいたい場合、2012年7月9日の「税関による商標権益保護措置執行実施規則」によると、対象がまだ未特定であるため、実際の輸出入貨物情報(即ち、上記(2)の資料)を提出しなくてもよい。 |
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税関は上記の告発又は提示を受け取った後、告発又は提示の内容が具体的であるか否か検討、評価したうえで、その告発又は提示を受理するか否か決定しなければならない。受理する場合は、商標権者に通知しなければならない。必要があれば、出頭して説明するよう商標権者に通知することができる。 |
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2012年7月9日の「税関による商標権益保護措置執行実施規則」によれば、税関は告発又は提示を受理した後、もし、輸出入貨物を照合し、商標権者の主張内容と一致した場合、電話及びファクシミリで商標権者及び輸出入者に通知し、このとき商標権者は定められた時間内に(空輸輸出貨物であれば4時間以内、空輸輸入又は海運輸出入貨物であれば24時間以内に)税関に出頭して貨物を検査・認定を行い、かつ、3執務日以内に(正当な理由があれば3執務日延長できる。但し、延長は1回限りとする)権利侵害の証拠を提出しなければならない。万一、商標権者が期限内に前述の行為義務を履行することができなかった、又は輸出入貨物に侵害の事情がないと認定された場合、その他の通関規定に違反がなければ、税関は輸出入貨物通関規定により処理し、貨物を通関させることとなる。 |
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上記の時間制限は、権利者にとって、相当差し迫ったものである。権利者に4時間以内に税関に出向いて認定を行うよう要求するのは、明らかに過酷すぎる、といった意見や疑義がかつてあった。しかし、関税総局は「これは、輸出入者の権益にも併せて配慮するため、採用しなければならない重要な規範である」との見解を示している。事実、現行の2008年版「税関の協力による専利、商標及び著作権益保護措置執行作業要点」には早くから既に類似の時間制限規定が定められている。そのうち海運輸出入及び空輸輸出入の部分では、なんと、権利者は「1執務日」以内(24時間ではない)に税関に出向いて認定を行わなければならないと規定されている。 |
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輸出入者が協力すべき処理事項 |
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現在の税関水際措置は、もとより、商標及び著作権者に対して前述の行為義務及び時間制限を課すことによって、輸出入者の権益とのバランスをとっているが、同時に、輸出入者に対しても、積極的に対応、応答するよう要求しており、これによって、双方の立場に配慮するという目的を達成し、案件が長引くことを回避している。2012年7月9日に施行された 2012年7月9日の「税関による商標権益保護措置執行実施規則」を例にすると、輸出者が、その貨物が権利侵害疑義物品とみられていることを知らせる税関からの通知を受領したとき、3執務日(正当な理由があれば3日延長できる。但し、延長は1回限りとする)以内に、確かに合法的に使用許諾を受けていることを証明する証明書類、又は、権利侵害の事情がないことを証明するその他の証明書類を提出しなければならない。 |
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税関はこれらの書類を受領した後、3執務日以内に、商標権者に、商標法第72条第1項の規定により税関に予め貨物の差止めを申請することができることを通知しなければならない。もし商標権者が期限内に予め差し止めるよう申請しなかった又は権利侵害の事情がないことを説明しなかった場合、代表性のあるサンプルを選び取り、貨物の輸出入に関する通関規定に基づき処理することができる。 |
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専利権侵害の水際措置 |
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商標、著作権侵害事件の輸出入貨物処理方式の細かい設計に比べて、税関水際措置には専利権侵害事件について類似のメカニズムがなく、かつ実施条件はさらに厳しい。これは、現行の2008年版「税関の協力による専利、商標及び著作権益保護措置執行作業要点」、又は関税総局がようやく公布した「税関の協力による専利及び著作権益保護措置執行作業要点」草案を問わず、いずれにおいても同じである。前述したとおり、商標権者(著作権者も同様)は直接、資料を提出して税関に告発又は提示することができ、予め司法機関の判決を受ける必要はない。但し、専利権者は予め裁判所に仮処分(暫定状態を定める仮処分)を申請し許可を受けた後、執行に協力するよう命じる執行命令を税関に送達するよう裁判所に請求しなければならない。しかも、税関は執行命令を受けた後、案件に関連する貨物の輸出入時間及び地点、輸出入運輸機関名称、便名、はては輸出入申告書番号などの情報までも提供するよう専利権者に要求しなければ、執行に協力し処理することができない。 |
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よって、台湾の専利権利侵害訴訟実務では、専利権者が裁判所の仮処分の裁定を得てから、税関の水際措置を利用して権利侵害製品の輸入及び販売を防ごうとするケースがしばしば見られるものの、実際には、公のルートを通して権利侵害貨物の輸出入時間、地点、便名、申告書番号などの細かな情報を確認することは困難であるため、有効な執行効果を得にくい。 |
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税関水際措置を探究する理由は、ひとえに、専利権侵害事件に対して全く異なるやり方が採用されているからであり、その原因はおそらく、貨物の外観だけから当該貨物に使用されている技術が他人の専利権範囲に及ぶか否かを税関職員が判断するのが難しいからであろう。これに対して、商標権保護の対象の多くは文字、図形、記号などで構成される標示(logo)であり、著作権が保護するものは著作物の表現形式であり、これらはすべて税関職員がそれらの外観から自らの経験により比較的判断しやすいものである。 |
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まとめ |
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知的財産権の保護意識が高まり、関連する法律行動が既に企業競争の重要な武器となりつつある今日において、知的財産権者、輸出入業者又は各種製品の製造、販売に従事するメーカーは、税関水際措置に対してもっと関心を向けるべきであり、ならびに、事前に企業内に関連行動準則を規範すべきである。財政部関税総局が「税関による商標権益保護措置執行実施規則」及び「税関の協力による専利及び著作権益保護措置執行作業要点」の改正ならびに施行を完成した暁には、台湾の知的財産権保護環境の健全化が促進され、法執行の品質が高まるはずである。 |