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発明の進歩性判断は「当業者及びその技術水準」を先に確立すべきか --最高行政裁判所判決からの考察
発明の進歩性の有無について、専利法(専利:特許、実用新案、意匠を含む)第22条第2項は、その属する技術分野における通常の知識を有する者(person who has the ordinary skill in the art、すなわちPHOSITA、以下「当業者」という)が出願前の従来技術に基づいて容易に完成できるか否かが判断の基準とする旨規定している。
しかし、「当業者」は仮想の人物であり、進歩性の攻防及び判断のために、裁判所がその技術水準を先に確立すべきか。これに対して、最高行政裁判所の見解は、以下の3つに大別される。
一、「当業者の知識レベルを先に確立することが適切である」という見解の採用
最高行政裁判所105年(西暦2016年)度判字第503号行政判決(判決日:2016年9月29日)が例として挙げられる。同判決において、同裁判所は、原判決が何をもって当業者とすることについて具体的に定義又は解釈していなかったとしても、同裁判所はこれを容認しているが、「今後、裁判所が進歩性を判断する際も、まずは係争特許の重点技術分野、従来技術が直面している課題、課題解決手段、技術の複雑性及びその実務従事者の通常の水準に基づいて、「当業者」の知識レベルを確立することが適切である」と強調した。
二、「当業者の知識レベルを具体化すべき」という見解の採用
最高行政裁判所は、107年(西暦2018年)度判字第589号行政判決(判決日:2018年10月11日)において、当業者の知識レベルは、進歩性の判断基準を確立し、後知恵バイアスを避けるために用いられるため、「単純に学歴や職歴、勤続年数をもって確立するのではなく、その発明が属する技術分野に関する従来技術などの外部証拠資料によりこれを具体化すべきである」との見解を示した。
三、「当業者の知識レベルは、当事者双方の攻防に伴って徐々に出現し、具体化される」という見解の採用
また、近年、最高行政裁判所が判決の中で、当業者の知識レベルは、当事者双方の攻防に伴って「徐々に出現し」、訴訟の論証過程で次第に具体化されるものであり、自然法則に反することなく、論理則、経験則によって客観的に判断することができる。この判断が経験則、理論則、自然法則に反しないのであれば、裁判所が当業者の知識水準について論じていないとは言い難いと指摘するのが一般的である。このような見解を採用した判決としては、最高行政裁判所110年(西暦2021年)度上字第543号(判決日:2023年4月20日)、111年(西暦2022年)度上字第872号(判決日:2023年1月12日)、111年(西暦2022年)度上字第236号(判決日:2023年8月24日)、111年(西暦2022年)度上字第401号(判決日:2022年10月27日)及び110年(西暦2021年)度上字第135号(判決日:2022年8月30日)などがある。
最近の最高行政裁判所113年(西暦2024年)度再字第11号行政判決(判決日:2024年9月12日)も、上記第三の見解を採用している。本件再審の原告は、原審が当業者が何者であるかを明確にしておらず、原判決に法令の適用の誤りがあると主張した。本件において、最高裁は、裁判所による発明の進歩性の論証過程は、当業者の知識レベルの具体化であることを改めて述べて、再審の訴えを棄却した。これは、最高行政裁判所の長期にわたる安定した見解として、今後注目すべきものであろう。