ニューズレター
美術の著作物と建築の著作物の区別:平面から立体への変換は著作権侵害となるか
一、前言
著作権法第3条第1項第5号は、「複製:印刷、複写、録音、録画、撮影、筆記又はその他の方法により、直接的、間接的、永久的又は一時的に再製することをいう。...又は建築設計図若しくは建築模型に従って建築物を建築することもこれに含むものとする。」と規定している。このことから、「平面建築設計図」に基づいて「立体建築物」を建築する行為は著作権法上の複製にあたることが分かる。しかし、台湾の裁判実務では、「平面」の「図形著作物」又は「美術著作物」から「立体物」を作成する場合、平面形式で立体物に付着した場合を除き、「複製」ではなく、著作権の保護範囲に属さない「実施」とされている(最高裁判所93年(西暦2004年)度台上字第5488号刑事判決、最高裁判所86年(西暦1997年)度台上字第5222号刑事判決を参照)。このことから、設計図の著作物の種類の判断が、「平面から立体への変換」の著作物の利用行為が著作権侵害となるか否かに決定的な影響を与えることは明らかである。
知的財産及び商業裁判所(以下「IPCC」という)112年(西暦2023年)度民著訴字第56号民事判決(判決日:2024年9月5日)は、「建築の著作物」と「美術の著作物」の区別の基準を明らかにし、その著作権侵害の判断を詳しく述べている。
二、本件事実
本件事実は次のとおり。原告は、風景をモチーフにしたインスタレーションアートのデザイン・エンジニアリング入札案件を落札し、原告の従業員が「五脚亭(五本柱あずまや)」の設計図(以下「係争設計図」という)を完成させた。その後、原告は被告会社と請負契約を締結し、契約によると、被告会社は原告の指示及び係争設計図に従って「五脚亭」のインスタレーションアートを制作することとなった。ところが、その後、被告は、係争設計図に基づき、実際完成したインスタレーションアートの写真(以下「係争写真」といい、原告の従業員が撮影したもの)を出展して受賞し、Facebookや展示会の公式サイトにも掲載された。
三、本判決
(一) 美術の著作物と建築の著作物の区別
本判決は、「美術の著作物」とは、描画、着色、書、彫刻、塑像などの平面的又は立体的な美術技法により線、明暗又は形状を表現し、美的感覚を特徴として思想又は感情を創作的に表現したものをいい、美術の著作物は、美術技法の表現を要件とし、すなわち、美術技法により思想又は感情を創作的に表現したものであることが必要であると指摘した。そのため、係争設計図は、竹筒、金物、照明の外観、特徴、制作工程などの構図や文章を組み合わせ、サイズ、位置、制作指示などの異なる図形や文章を付加したものである。その色彩の組み合わせ、構図、情景、雰囲気の変化といった美術的特徴は、創作者がさまざまな表現方法を用いた結果である。その表現方法は唯一無二でもごく少数でもなく、それが表現する美的感覚やアイデアは、単なる実用的デザインではなく、創作者独自の発想や芸術性を示した、一定レベルの創作性を有するものであり、「建築の著作物」ではなく、「美術の著作物」であると考えられる。
(二)係争設計図は美術の著作物であり、被告による平面から立体への変換は、原告の複製権や翻案権を侵害しない
IPCCは、被告会社が係争設計図に基づいて制作した「五脚亭」のインスタレーションアートは、係争設計図の「平面から立体への変換」による複製物ではなく、また、被告会社が契約に従い制作した成果物が係争設計図と異なるものであったとしても、その問題は双方の合意によって解決されるべきであり、原告の係争設計図の複製権や翻案権を侵害するものではないと判断した。
(三)被告らによる係争写真の複製・公衆送信行為は、著作権侵害にあたる
しかし、被告によるFacebook上での係争写真の複製・公衆送信行為について、IPCCは、被告がFacebookの運営を目的として係争写真を「全て」使用したことは、商業上の利益を得ること目的とするものであり、また、係争写真の出展は、被告のPRや知名度向上を目的とするものであり、いずれも商業的利用行為に該当し、原告の潜在的な市場価値・現在価値に影響が及ぶことは必至であり、著作権法第52条に規定する他人の著作物を「引用」するフェアユースにはあたらないとした。よって、被告は原告の著作財産権を侵害したと認められ、原告に5万台湾元(約23万9千円)の損害賠償を命じられた。
(四)IPCCが採用しなかった原告の主張
1.IPCCは、係争設計図及び係争写真は、原告の従業員が職務上完成させたものであり、著作権法によれば、原告ではなく原告の従業員が著作人格権を享有するものであるため、被告会社は原告の著作人格権を侵害していないと判断した。
2.IPCCは、展示会主催者と確認したところ、被告会社が出展の際に提出した書類には係争設計図は含まれていなかったため、被告は原告の係争設計図の著作財産権を侵害していないと判断した。
四、 まとめ
本判決は、「美術の著作物」と「建築の著作物」の区別について、その著作物が美術技法の表現であるか、単なる実用的デザインであるかを判断すべきであるとした上で、さらに、「美術の著作物」であるか、「建築の著作物」であるか、その他の種類の著作物であるかという著作物の種類の判断については、平面設計図から立体物への変換が著作権侵害にあたるかどうかに重要な役割を果たすと述べた。